更新日:2024年3月29日
中国
生産の状況
中国はその人口を扶養するために、ハイブリッド・ライスをはじめとして、これまで積極的に農業技術革新を導入してきました。遺伝子組み換え技術についてもこの点が当てはまります。遺伝子組み換え技術の導入に積極的な中国では、2023年には275万ヘクタール(世界第8位)で遺伝子組み換え作物が栽培されたとされています1。1997年以降、中国では6種類の遺伝子組み換え植物(ワタ、トマト、ピーマン、ペチュニア、ポプラ、パパイヤ)が商業化されました。しかし、その栽培面積のほとんどは害虫抵抗性ワタの作付けによるものです。組み換えワタの栽培面積は最近やや低下傾向にありますが、それでもワタ全体の95%程度が組み換え品種です。遺伝子組み換えのトウモロコシと大豆に関しては、安全証明が発行されながら、商業栽培されていませんでしたが、最近になって品種登録が進みつつあることから、商業栽培が始まる可能性があります2。政府は、遺伝子組み換え技術による作物・動物・林木の研究開発を積極的に進めており、この分野に対する研究開発投資は、公的機関としては世界最大規模と考えられます。また2022年5月には国家発展改革委員会(NRDC)により「第14次バイオエコノミー発展5か年計画」が公表され、バイオ育種やバイオエネルギー分野の振興方針が示されました。
安全性審査
001年に「農業遺伝子組み換え生物安全管理条例」が国務院より公布され、さらに2002年に関連規則として「農業遺伝子組み換え生物安全評価管理規則」(国内安全管理)、「農業遺伝子組み換え生物輸入安全管理規則」(輸入承認)、「農業遺伝子組み換え生物表示管理規則」(表示規則)が農業農村部(MARA)により制定されました。さらに2006年には「農業遺伝子組み換え生物加工管理規則」(加工用承認)が制定されました。なお、「農業遺伝子組み換え生物安全管理条例」および関連諸規則は2017年に一部改訂され、野外試験や動物実験の実施を国内研究機関に申請者が委託できるなどの変更が行われました2。さらに2022年1月には「農業遺伝子組み換え生物安全評価管理規則」の改訂が公表され、従来の安全性評価を「品種とイベント」の組み合わせ毎に実施されてきた制度を、「イベント」毎にのみ実施すると変更されました。これにより、安全性審査の効率化が期待されます。
基本的な方針に関しては、農業農村部、衛生部、科学技術部、国家環境保護総局、国家品質監督検疫総局、対外貿易経済協力部、国家発展計画委員会の7省庁の代表者で構成する「遺伝子組み換え生物の安全管理部門間合同会議制度」で協議されることになっています。また、農業農村部には「農業遺伝子組み換え生物安全委員会」(年2回以上開催)が設置され、専門的な観点による安全評価を行うこととなっているなど、農業農村部が中心的役割を担っています。
安全性評価は、実験室レベルでの試験以降、「中間試験」「環境放出試験」「生産性試験」の3ステップで審査され、それぞれのステップへ進むためには、農業農村部への申請が必要になります。「生産性試験」の審査後に、農業農村部へ安全証明を申請し認可されると、安全証明書が交付されますが、安全証明書の有効期限は一般に5年を超えないものとされています(更新可)。具体的な評価では、導入遺伝子や導入方法など総合的な評価から、4段階の安全性評価(「危険性なし」~「高度の危険性」) が判断されます。
これまで中国では食用の遺伝子組み換え作物の国内栽培は(パパイヤを除き)進んでいませんでしたが、2022年1月に「主要作物品種登録管理規則」が改訂され、遺伝子組み換えの主要作物品種の登録手続きが明示されました。今後は食用作物でも、遺伝子組み換え作物の商業栽培が進む可能性があります。なお、ここでの主要作物は、イネ、小麦、トウモロコシ、ワタ、大豆の5作物を指します。
輸入品の安全性規制については、使用目的に応じてさまざまな承認手順(通関許可、試験、安全性評価)があり、最終決定は農業農村部が行います。
表示
遺伝子組み換え体や組み換え体に由来する原料から製造した食品には表示が求められることになります。現在は、ダイズ(ダイズ種子、ダイズ粉、ダイズ油、ダイズ粕を含む)、トウモロコシ(トウモロコシ種子、トウモロコシ油、トウモロコシ粉を含む)、ナタネ(ナタネ種子、ナタネ油、ナタネ粕を含む)、ワタ(ワタ種子)、トマト(トマトの種子、トマトケチャップを含む)が表示対象リストにあがっています(パパイヤは含まれていません)。 最終的には、食品の製造業者や加工業者の監視システムを導入することを目的としています。ただし、意図せざる混入を許容する閾値については、明示的に定められていません。また表示の監視は地方政府に委ねられています。
2019年10月に公布された「食品安全法施行規則」においては、遺伝子組み換え食品に対して明確な表示を行うよう規定されています。また2020年7月には、市場監督管理総局(SAMR)から食品表示ルールの見直し案が公表され、このなかでは組み換え食品の表示の一部見直しも提案されています(GMフリー表示の禁止など)。
新たな育種技術(NBT)の扱い
新たな育種技術をもちいて開発された生物の規制上の位置づけに関しては、2022年になって進展がみられました。具体的には、2022年1月に農業農村部が「農業用遺伝子編集植物安全評価指針(試行)」を公表し、環境/食品面のリスクが小さいと認められたものは、中間試験の結果を提示することで安全証明を申請できるという手続きを定めました。なお、リスクが大きいと認められるものに関しては、さらに追加的試験(環境放出試験や生産性試験)を実施し、その試験結果を提出することで、安全証明を申請するというルールが導入されました。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授