テクノロジー

バイオテクノロジーは、様々な分野で私たちの暮らしに貢献している技術です。ここでは、バイオテクノロジーの簡単な説明とともに、遺伝子組換え作物の開発手法や原理、また今後の技術についての展望などをご紹介いたします。

バイオテクノロジーの基礎

1953年にワトソンとクリックがデオキシリボ核酸DNA)の立体構造を明らかにして以来、遺伝子に関する研究は飛躍的に発展しました。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基から構成されるDNAは、それらが連なったひも状の形状をしています。DNAは立体的に折りたたまれて染色体となり、細胞の中に収納されています。A、T、G、Cの並び方に秘密があり、3文字(4x4x4=64通り)で特定の意味を持ちます。つまり、アミノ酸の作成を開始するか、どのアミノ酸を作成するか、アミノ酸の作成を終了するかです。配列に従い作られたアミノ酸が連なったものがタンパク質であり、これが生物の性質を実現する様々な機能を発揮しています。このようにしてタンパク質を作成するための遺伝情報の単位が、遺伝子です。そして、生物が持つすべての遺伝情報をゲノムと呼びます。ヒトの場合、約31億の塩基、約2.2万の遺伝子から構成されています。

遺伝子組換え技術とは、DNAを細胞外で切断したり結合したり、あるいはDNAを細胞内に導入したりするなどして遺伝暗号を変える技術のことです。遺伝子組換え技術は、様々な分野で私たちの社会に貢献しています。遺伝子組換え技術を用いて製造したヒトインスリンやヒト成長ホルモン、オプジーボなどの抗がん剤など、医療分野ではすでに数多く商品化されています。ナチュラルチーズの製造に欠かせない酵素キモシンや、サプリメントとして利用される多くのビタミン類も、遺伝子組換え技術により作られています。

このように、遺伝子組換え技術を利用した製品は既に身の回りにあふれており、私たちの社会に欠かせないものとなっています。遺伝子組換え技術の是非を考慮するとき、このような実情を判断の一助にすべきではないでしょうか。

遺伝子組換え作物の開発

1970年代後半に、土壌微生物の一種であるアグロバクテリウムが自らの遺伝子の一部を植物に導入することが発見されて、植物の世界で遺伝子組換えの研究が盛んになりました。アグロバクテリウムを「遺伝子の運び屋」として、植物に目的とする遺伝子を導入して、確実に短期間で新たな性質を加えることが可能となったのです(アグロバクテリウム法)。また、交配を行うことのできない他の生物の有用な遺伝資源も活用することが出来るようになり、品種改良技術は飛躍的にその可能性を拡げました。上記のアグロバクテリウム法以外にも、遺伝子をまぶした金粒子を植物に高圧ガスで打ち込む「パーティクルガン法」という手法もあります。

遺伝子組換え作物の作り方 ?アグロバクテリウム法
遺伝子組換え作物の作り方 ?パーティクルガン法

遺伝子組換え作物の原理:害虫抵抗性

害虫抵抗性のGM作物として代表的なものは、害虫に対して殺虫作用を持つ「Btタンパク質」を作り出すよう改良された作物です。殺虫剤による防除では、害虫の発生時期に合わせて何度も散布する必要があり、また植物の中に潜り込んでしまう害虫には効果を発揮しにくいという欠点もありました。Btタンパク質は、穿孔性害虫も含めた食害中に防除効果を発揮します。このため、農家にとっては農薬を散布する手間が省けて、作業量、農薬使用量がともに減るというメリットがあります。

Btタンパク質は、もともとは土壌に生息しているバチルス・チューリンゲンシスBacillus thuringiensisという微生物が作り出す殺虫性のタンパク質です。Btタンパク質を含む植物組織を害虫が摂取すると、Btタンパク質は、害虫の腸内において消化酵素により活性型に変換されます。活性型Btタンパク質は、中腸細胞の細胞膜に結合し、細胞膜に穴を開けます。穴が開いた細胞は浸透圧の変化によって破壊され、最終的にその害虫は死に至ります。

Btタンパク質は、B. thuringiensisが作り出す殺虫性タンパク質の総称であり、これまで数百種類が報告されています。殺虫作用には高い特異性があり、あるBtタンパク質は特定のチョウ目に有効、別のBtタンパク質は特定のコウチュウ目に有効という風に、種類によって殺虫作用のスペクトラムが決まっています。したがって、農薬よりも益虫などの非標的昆虫に対する影響は緩やかです。また、ヒトや動物ではこのような相互作用は消化管で起こらないので、Btタンパク質を食べても安全です。もちろんタンパク質ですので、すぐに分解され環境中に蓄積することもありません。そもそも、Btタンパク質は生物農薬としても何十年も使用されており、有機農業でも使用が認められている資材です。

遺伝子組換え作物の原理:除草剤耐性

除草剤耐性作物は、ある特定の除草剤をまいても枯れないよう、遺伝子組換え技術によって作られた作物です。栽培中に特定の除草剤を1?2回散布するだけで、作物に被害を与えることなく雑草だけを枯らすことができるため、農作業の負担を軽減することができます。

除草剤グリホサートは、植物の生育に必要な芳香族アミノ酸の生合成経路に関わる酵素5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)と特異的に結合して、その活性を阻害します。そのため、グリホサートを浴びた植物は必要なアミノ酸を合成できなくなり、枯死します。そこで、この酵素と同様の働きを持ちながらグリホサートの影響を受けないように改変した酵素を作る遺伝子を作物に組み込みます。すると、この作物はグリホサートをまいてもその影響を受けることなく育ち、雑草だけが枯れます。現在、グリホサートの他に、グルホシネートやオキシニル系除草剤などの除草剤に影響を受けない作物が商品化されています。

1996年から除草剤耐性作物の栽培が進められ、栽培面積は年々増加しています。これは、農家自身が除草剤耐性作物のメリットを実感していることの表れであると言えるでしょう。

農作物以外への応用

遺伝子組換え技術を利用して開発される遺伝子組換え生物(GMO)は、何も植物だけに留まりません。ここでは、近年進められている動物への応用例についてご紹介いたします。

GMサケ

2015年、世界で最初の食品用のGM動物が米国で承認されました。アクアアドバンテージ・サーモン(AquAdvantage® Salmon)と名付けられたこのサケは、米国マサチューセッツ州に拠点を構えるアクアバウンティ・テクノロジーズ社(AquaBounty Technologies)が20年以上をかけて開発したものです。遺伝子組換え技術によって成長速度が早められており、上市までの期間が短縮され、養殖用飼料の量も節約できるというメリットを持っています。環境中への流出を防止するため、作成される個体はすべて不妊のメスであり、物理的に水系から隔離された陸上設備での飼育を条件として承認されています。

GM昆虫

衛生害虫や農業害虫の防除に、遺伝子組換え昆虫を利用しようとする試みも近年進められています。伝染病の媒介動物である蚊は、毎年最も人間を殺している動物であるとも言われています。英国のバイオテクノロジー企業オキシテック社(Oxitec)は、ジカ熱やデング熱、チクングニア熱、黄熱病を媒介するネッタイシマカAedes aegyptiの集団密度を抑制するため、遺伝子組換え技術により不妊化したオスを作成しました。この不妊化したオスを環境中に放出すると(蚊のオスは人間を刺しません)、このオスと交配した野生のメスは子孫を残すことができず、やがて個体数は減少していきます。同社のウェブサイトによると、既にブラジルやパナマ、ケイマン諸島における野外試験で集団密度低下への有効性が認められており、今後米国での試験を予定中とのことです。

また同社は、農業害虫であるミバエやコナガの防除にも、遺伝子組換え個体の利用を計画しています。なお、不妊虫放飼による害虫防除は古くから行われている手法であり、日本でも沖縄のウリミバエの根絶のために放射線で不妊化した個体が利用されました。

ゲノム編集技術

ゲノム編集」技術とは、簡単に言えば、ゲノム上の狙った場所を改変することを目指した技術です。ゲノム編集以前のバイオテクノロジーでは、ゲノム上の特定の個所を狙うことが難しく、意図した変異を得るまでに多くの時間と費用を必要としていました。2012年、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス9)システムという新技術がカリフォルニア大学のジェニファー・ダウドナJennifer Anne Doudna博士とウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエEmmanuelle Marie Charpentier博士らにより発表されると1、ゲノム編集技術に関する研究開発が世界的に加速しました。従来の技術を凌駕する正確性、簡便性、そして生物種を超えた応用性から、医療分野、農業分野、工業分野など、様々な産業での革新が期待されています。

ゲノム編集技術の農業分野への応用について、日本も注力しています。内閣府は、日本のイノベーションを促進し新規産業を創造するために、府省の枠を超えた「戦略的イノベーション創造プログラム」を策定しています。そのうち「次世代農林水産業創造技術」の一環として、「ゲノム編集技術等を用いた画期的な農水産物の開発」が課題として採択されています。筑波大学や理化学研究所、農研機構、水産研究・教育機構などの研究機関がスクラムを組んで、ゲノム編集技術を用いて栄養成分を向上させたトマトや超多収性のイネ、ステロイドグリコアルカロイド(ソラニンなどの天然毒素、SGA)を除去したジャガイモ、養殖適正を高めたマグロなどの開発に取り組んでいます。

1Jinek, M. et al. (2012). A Programmable Dual-RNA?Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity. Science, 337 (6096), 816-821.

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