遺伝子組み換え技術を利用して開発される遺伝子組み換え生物(GMO)は、何も植物だけに留まりません。ここでは、近年進められている動物への応用例についてご紹介いたします。
遺伝子組み換え蚊
衛生害虫や農業害虫の防除に、遺伝子組み換え昆虫を利用しようとする試みも近年進められています。伝染病の媒介動物である蚊は、毎年最も人間を殺している動物であるとも言われています。英国のバイオテクノロジー企業オキシテック社(Oxitec)は、ジカ熱やデング熱、チクングニア熱、黄熱病を媒介するネッタイシマカAedes aegypti の集団密度を抑制するため、遺伝子組み換え技術により不妊化したオスを作成しました。この不妊化したオスを環境中に放出すると(蚊のオスは人間を刺しません)、このオスと交配した野生のメスは子孫を残すことができず、やがて個体数は減少していきます。同社のウェブサイトによると、既にブラジルやパナマ、ケイマン諸島における野外試験で集団密度低下への有効性が認められ、2021年にブラジルで商業化されています。
また同社は、農業害虫であるミバエやコナガの防除にも、遺伝子組み換え個体の利用を計画しています。なお、不妊虫放飼による害虫防除は古くから行われている手法であり、日本でも沖縄のウリミバエの根絶のために放射線で不妊化した個体が利用されました。
遺伝子組み換えカイコ
カイコは非石油原料の天然タンパク質繊維であるシルクを生産します。国内では2008年に、カイコの遺伝子組み換え技術を用いて光るシルクを作ることに成功しています。また、カイコは生物工場としても優れた性質を有しており、組み換えタンパク質の生産に利用できます。たとえば、カイコにおけるタンパク質の糖鎖修飾はヒト型糖鎖に比較的近いことから、抗体医薬品の開発が期待されており、医薬品製造プラットフォームとして近年注目されています。