更新日:2024年3月29日
ブラジル
生産の状況
ブラジル連邦共和国は、アメリカについで積極的に植物バイオテクノロジーを導入しており、世界第2位の遺伝子組み換え作物の栽培面積を有する国です(第3位は同じラテンアメリカのアルゼンチン)。2023年には遺伝子組み換えのダイズ(約4,363万ヘクタール)、トウモロコシ(約2,160万ヘクタール)、ワタ(約165万ヘクタール)が栽培されています1。これらの作物では組み換え作物の割合は、いずれも作付面積全体の9割以上に及んでおり、普及は一巡したと考えられます。このほか、サトウキビ(害虫抵抗性、約3.8万ヘクタール)、インゲンマメ(dry edible beans)が栽培されています2。
研究開発についても、サトウキビのほか、ジャガイモ、パパイヤ、イネ、柑橘などで進められています。ユーカリは栽培認可されましたが、国内ではまだ栽培されていません。また作物ではありませんが、マラリアなどの疾病対策のために組み換え蚊の研究などにも取り組まれています。
安全性の審査
ブラジルにおける遺伝子組み換え生物に関する基本法は、公法11号(Law #11, 105/2005)のもとで定められています。その後、本法律は2007年の改訂法(Law #11, 406/2007)と政令5号(Decree #5, 591/2006)により修正されています。
遺伝子組み換え生物に関わる基本的方針は、国家バイオセイフティ委員会(CNBS)によって策定されます。CNBSは大統領府に属し、11名の各省大臣によって構成されています。CNBSの役割は、連邦政府のバイオテクノロジー政策の基本原則を定めるとともに、遺伝子組み換え生物の認可にあたって、国家の利益や社会経済的含意などの点から評価を行います。ブラジルにおけるバイオテクノロジー政策に関する最高意思決定機関といえます。
なお、CNBSは個々の品目における技術的な安全性評価には関与しません。こうした個々の品目についての安全性審査は、国家バイオセイフティ技術委員会(CTNBio)によって担当されています。CTNBioは、1995年に大統領臨時措置令(2191-9/01号)により科学技術省の機関として設置され、植物、動物、環境、健康などの各分野の専門家27名から構成されています。安全性審査はケースバイケースで行われ、技術的な点は、この委員会で検討されます。安全性認可されたものに対しては、有効期限は設定されていません。CTNBioによって認可された作物は、さらに農業畜産食料省(MAPA)による品種登録上の審査を経て、商業栽培が行なわれることになります。
スタック品種については、新しいイベントとして、同様の安全性確認の手続きがとられます(簡易手続きが2020年にいったん導入されましたが、その後取り下げられました2。
2021年11月にCTNbioは、アルゼンチンで開発された干ばつ耐性小麦の安全性を確認しました。しかし、CTNbioは小麦粉としての輸入のみを認め、種子として輸入したり、国内で栽培することは認めていません。アルゼンチンにとってブラジルは主要な小麦輸出先である関係で、ブラジルが承認しなければ、アルゼンチンでは組み換え小麦を商業栽培できないという条件が付されています。現在、ブラジルではCTNbioによる科学的審査結果に関して、CNBSがこれを最終的に認めるかどうかという点が焦点になっていますが、ブラジルの業界団体は反対の立場をとっています2。
表示
2003年の大統領令4680号(根拠法は、1980年「消費者法」)により、ブラジルでは食品・食品成分の1%以上の遺伝子組み換えが食品中に含まれる場合、それが高度な加工品であっても、表示する義務があります。また表示義務は遺伝子組み換え飼料を与えられた動物から得られた食肉にも適用されます。商品への表示のために、遺伝子組み換え作物を使用していることを示すシンボル(黄色の三角形内にTを表示)も定められています(司法省令2658号)。なお、この表示ルールに関しては、消費者に過剰な警戒心を与えているとの批判があり、議会において改訂案が検討されています(下院は2015年4月に通過しましたが、上院では検討中の状況が続いています)。新たなルールでは、高度な加工品や、遺伝子組み換え生物の飼料を与えられた動物から得られた食肉に関しては、表示しないこと、また上記のシンボルも使用しないことが提案されています。
新たな育種技術(NBT)の扱い
CTNbioは、2018年1月に「規範決議第16号」を公表しました。この決議により、外来遺伝子が導入されていない生物に関しては、規制対象外であるとし、その申請のための手続きを定めました。正確な育種を可能とする技術は、正確イノベーション技術(TIMP)と呼ばれ、今後開発される技術にもこの考え方が適用されることになります。規制対象外と判断されたものに関しては、その申請内容の要約が官報で公表されています。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授