更新日:2023年2月1日
韓国
生産の状況
韓国においては、遺伝子組み換え作物は商業栽培されていません。2017年9月に、NGOとの協議にもとづき農村振興庁(RDA)は、組み換え作物の国内での商業栽培を行わないという決定を下しましたが、2019年4月には新しい育種技術開発センター設立を公表するなど、研究開発自体は続けられています1。研究活動継続の目的は、育種分野での将来の経済成長や輸入される組み換え作物のモニタリングのためなどと考えられます。
安全性審査
カルタヘナ議定書の締約国である韓国では、議定書を受けて国内法(LMO法)を制定し、2008年1月から施行されました(2012年12月に一部改訂)。さらに2021年5月に、貿易産業エネルギー省(MOTIE)は、ゲノム編集など新たな育種技術の規制方針や審査の円滑化などを含めて、国内法の改訂を提案しました。これは2017年に「第3次遺伝子組み換え生物安全管理計画」を政府が公表したことを受けた対応です。改訂法案を2022年末までに作成し、実施規則の制定もその後に行う予定となっています(2023年末の施行が目指されています)1。安全性審査には、様々な観点から多くの省庁が関わっていますが、ここでは現行法における主な省庁の役割について述べます。
貿易産業エネルギー省(MOTIE)は、カルタヘナ議定書の責任省庁であり、国内の遺伝子組み換え生物法のもとで、工業用途の遺伝子組み換え生物に関わる開発・生産・輸出入・販売・輸送・貯蔵に関する責任を有しています。また当初総理官邸直属であったバイオセイフティ委員会がMOTIEの所管に移されるに伴い(2013年12月)、本委員会を主宰する役割を担うことになりました。
農業食料農村省(MAFRA)は、遺伝子組み換え生物(農林産物、家畜)の輸出入に関わる規制を行っていますが、MAFRAに属する農村振興庁(RDA)が組み換え作物の環境安全性審査や野外試験の審査を担当しています。RDAの審査においては、国立生態学研究所(NIE)、国立漁業研究所(NFRDI)、韓国疾病対策センター(KCDC)などからの助言を求めます。水産物に関しては、海洋漁業省(MOF)が所管しています。
食品医薬品安全省(MFDS、旧KFDA)は、食品、医薬品用途の遺伝子組み換え生物の輸出入の規制、遺伝子組み換え作物の食品安全審査、遺伝子組み換え食品への表示義務の監督を担当しています。MFDSによる審査においても、上記のような関係研究機関からの助言を求める点は同様です。MFDSによる遺伝子組み換え食品の認可は10年間有効とされています(更新可)。
環境省(MOE)は、農業用途以外の遺伝子組み換え生物(例えば、バイオレメディエーション用)の利用に関する安全性審査を担当しています。
スタック品種に関しては、簡略化された安全性審査手続きが取られますが、スタックを構成している個々のイベントについての審査が終了していることが前提となっています。そのためそうした審査が終わっていないイベントを含んだスタック品種が申請される場合には、個別のイベントの審査の終了を待つ必要があり、認可までの時間がかかります。
表示
遺伝子組み換え食品の表示制度については、2001年3月からは作物、7月からは加工食品について実施されています。食品医薬品安全省(MFDS)の所管ですが、2016年2月の食品衛生法の改訂により表示制度が変更されました(2017年2月施行)。 それまでの表示制度では、新規のタンパクやDNAが検知できる場合、重量ベースで上位5品目に限定して、遺伝子組み換え由来の原材料が存在している食品には表示義務が課せられていました。これが新制度では、義務表示対象がすべての原材料に拡大されました。検知可能であれば、少量の原材料であっても表示が必要となりました。遺伝子組み換えを使っている場合は「遺伝子組み換え」または「遺伝子組み換え○○を含む」旨を表示しなければならないことになっています。
なお、改変されたDNAやタンパクが検出されない食品(油、砂糖、アルコール、しょうゆなど)に関しては、従前と同様、表示義務はありません。またIPハンドリングの証明がある場合には、最大3%までは遺伝子組み換え作物が(意図的でなければ)混入しても良いとしています。また「GMOフリー」の表示は認められていますが、製品の原材料重量の50%以上を占める原材料に関して、遺伝子組み換え原材料が検出ゼロであることが求められます(ゼロトレランス)。わずかでも検出されればGMフリーの表示違反となりますので、GMOフリー表示は現実的には困難と考えられています。
ただ、これ以降も消費者団体から、(改変されたDNAやタンパクが検出されないものも含めて)すべての製品に義務表示するべきとの働きかけが行われたことにより、2022年10月にMFDSはこうした要請にこたえるルール改訂を今後実施すると表明しました。新しい表示ルールは2024年までに制定され、2026年に施行することが目指されています。このなかでは「GMフリー」表示のルールの見直しも検討されています1。
包装された動物用飼料(ペットフードなど)については、2007年11月より、遺伝子組み換え由来の原材料が用いられている場合には、表示がされるようになりました。
新たな育種技術(NBT)の扱い
新たな育種技術をもちいて開発された生物の規制上の位置づけに関しては、現在策定されている遺伝子組み換えに関する基本法(LMO法)の改訂において検討されています。検討中の案においては、新たな育種技術を用いた生物は遺伝子組み換え生物と位置付けられるものの、外来遺伝子が含まれていないなどの条件を満たせば、安全性評価が免除されるなどの案が検討されています。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授