更新日:2024年3月29日
フィリピン
生産の状況
フィリピンは、東南アジア諸国のなかで、最も早くから遺伝子組み換え作物の栽培を開始しました。2003年から遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が開始され、2023年には57.6万ヘクタールの組み換えトウモロコシが栽培されています1。近年は、除草剤耐性と害虫抵抗性の両方の特性を有するスタック品種が主流になっています。フィリピン稲作研究所(PhilRice)や国際稲研究所(IRRI)を中心として研究されてきたゴールデンライス(ベータカロチン強化米)は、ようやく2021年7月に農業省から商業栽培の許可が出され、2022年4月に種子登録がなされたことで、商業栽培が始まりました2。ゴールデンライスは2022年に3.8万ヘクタール、2023年には4.7万ヘクタールで栽培されました1。アメリカからの研究開発支援を受けつつ、研究開発がなされた遺伝子組み換えBtナスに関しても、裁判などで認可が遅れていましたが、2022年10月に環境安全性の認可がなされました。食品安全性の認可に関しては、2021年7月になされており、商業栽培の条件が整いました1。以上により、トウモロコシ、ゴールデンライス、ナスの3品目が栽培認可されたことになります。
安全性審査
バイオテクノロジーに関する基本法制は、フィリピン農業省(DA)が2002年に公布した行政規則第8号(DA-AO8)「モダン・バイオテクノロジーを用いて作出された植物および植物製品の輸入と環境放出に関する規則と規制」によって定められていました。しかし、組み換えナスの商業化をめぐる裁判の過程で、規制における安全性審査手続き等を定める行政規則第8号(DA-A08)に不備があるとされたことで、一時的に審査手続きの無効が宣言されました(2015年12月の最高裁判決)。そしてこの判決をうけてフィリピン政府は、規制の改訂を検討し、2016年4月、新たな規則(Joint Departmental Circular No.1)を導入しました2。その後、さらに2022年2月にはこの規則の改訂がなされ、審査過程の迅速化などが進められました。それまで新たに申請が必要であったスタック品種は、個別品目が認可済みであれば申請不要となりました。また他国の認可データの利用可能性や、栽培される地方政府からの同意条件の緩和なども図られることになりました。
この規則は5省庁の合同によるもので、それぞれ次のような役割を分担することが確認されています。環境自然資源省(DENR)と保健省(DOH)は、それぞれ環境影響評価および健康影響評価の観点からリスク評価を担当します。内務地方省(DILG)は、関連省庁と連携しつつ市民からの意見聴取過程を監督します。科学技術省(DOST)は閉鎖系利用における組み換え生物の評価とモニタリングを担当します。農業省(DA)は、その下部組織である植物産業局(BPI)を通じて、野外試験や増殖、食品・飼料利用に関して認可を行います。飼料安全性に関しては、動物産業局(BAI)が担当しています。
フィリピンは、カルタヘナ議定書の締約国です。
表示
食品表示は、フィリピン食品医薬品局(PFDA)が所管となります。フィリピンでは、遺伝子組み換え食品に対する表示義務はありません。義務表示を求める法案がフィリピン議会に上程されましたが、具体的な進展はありません。
新たな育種技術(NBT)の扱い
新たな育種技術をもちいて開発された生物の規制上の位置づけに関しては、2022年に方針が示されました。具体的には2022年5月に農業省が、通達8号(Memorandum Circular No.8)を発出し、植物育種イノベーション(PBI)に基づく製品を上市するための規則と手順を公表しました。開発者は、農業省植物産業局に情報を提供し、外来遺伝子を含まないことが確認されれば規制対象外とされ、開発者に証明書が発行されます。また企業秘密を除いた情報もウェブサイトに公表されることになっています。
※協力:名古屋大学大学院 環境学研究科 立川 雅司 教授