実用化と開発の状況

これまでに、様々な作物で様々な性質を持つ遺伝子組換え品種が実用化されています。それらの品種について、開発中の遺伝子組換え品種についても交えながらご紹介いたします。

除草剤耐性作物

農業は、作物の周辺にはびこる雑草との戦いです。農家は通常、雑草や作物の種類に合わせていくつかの除草剤を組み合わせて使用し、肝心の作物には影響を与えないように気をつけています。そこで、そのような除草の手間を軽減するために開発されたのが除草剤耐性作物です。除草剤耐性作物は、ある特定の除草剤をまいても枯れないよう、遺伝子組換え技術によって作られた作物です。栽培中に特定の除草剤を1?2回散布するだけで、作物に被害を与えることなく雑草だけを枯らすことができるため、農作業の負担を軽減することができます。除草剤耐性作物として、ダイズやトウモロコシ、ナタネ、ワタ、テンサイ、アルファルファなどが実用化されています。

除草剤耐性作物は、不耕起栽培(耕さない農業)にも有効です。日本人の感覚では、耕さない農業というと不思議な感じがしますが、表土の流失が深刻な問題となっている米国では、耕さない農業が推奨されています。米国では、毎年20億トンという膨大な表土が流出のために失われています。土を耕すと、富み肥えた表土が失われやすくなり、耕地が荒地に変わって、農業面でも環境面でも大きな損害が生じます。そこで耕さない農法への転換が求められますが、耕起は雑草防除の手段としても有効であるため、耕さないと雑草が繁茂してしまうという問題があります。除草剤耐性作物を栽培すると、除草のための耕起は不要です。加えて、耕耘作業やそれに伴うトラクターの燃料を削減でき、より効率的な農業が可能になりました。

除草剤耐性作物

害虫抵抗性作物

遺伝子組換え技術によって、特定の害虫に対して被害を受けない害虫抵抗性という性質を作物に付与することが可能になりました。害虫抵抗性作物は、殺虫剤を使用せずに害虫による食害を軽減することができます。害虫抵抗性のGM作物として代表的なものは、害虫に対して殺虫作用を持つBtタンパク質を作り出すよう改良された作物です。

米国では、毎年ヨーロッパアワノメイガEuropean corn borer(Ostrinia nubilalis)という害虫によるトウモロコシの被害が発生し、多い時にはその半数を枯死させてしまいます。ヨーロッパアワノメイガの幼虫はトウモロコシの茎の中に入り込んでしまうために、殺虫剤が効きにくく、被害が甚大なものになってしまうのです。一方、Btタンパク質はこのような穿孔性害虫にも防除効果を発揮します。このため、農家にとっては農薬を散布する手間が省けて、作業量、農薬使用量がともに減るというメリットがあります。現在までに、トウモロコシ、ワタ、ダイズ、ナスなどで害虫抵抗性作物が実用化されています。

害虫抵抗性作物

耐病性作物

作物病害は、世界各地で作物に壊滅的な被害を与えています。特にウイルス病は大変な脅威であり、有効な対策が確立されていない場合がほとんどです。そこで、遺伝子組換え技術でウイルス病にかかりにくい性質をもつ作物が開発されています。

植物には動物と同じような免疫機構はありませんが、あるウイルスに感染すると似た種類のウイルスには感染しないという性質があります。その理由は、ウイルスの表面を包んでいるコートタンパク質にあります。タバコモザイクウイルスのコートタンパク質を作る遺伝子をタバコに導入したところ、タバコモザイクウイルスに感染しにくい性質が得られました。この原理を利用したウイルス抵抗性植物としては、ハワイの輪紋ウイルス抵抗性パパイヤが最も有名でしょう。現在、ハワイのパパイヤのうち半分以上がウイルス抵抗性の遺伝子組換え品種です。他にも、ウイルス抵抗性スクワッシュが実用化されています。

耐病性作物

栄養強化作物

遺伝子組換え技術によって、作物の栄養成分を変えることもできるようになりました。例えば、高オレイン酸ダイズ。オレイン酸には、血中の善玉コレステロールはそのままで、悪玉コレステロールだけを下げる効果があるといわれています。高オレイン酸ダイズは、オレイン酸を多く含むことで知られているオリーブオイルと同じくらいのレベルまでオレイン酸含有量が高められています。開発中のものとしては、ビタミンA含有量を高めたイネのゴールデンライスや、オメガ3脂肪酸含有量を高めたナタネなどがあります。

色変わりの花

青いバラの花言葉は「不可能」であったように、青色のバラやカーネーションを従来の品種改良で生み出すことはできませんでした。これらの花には、青色の色素をつくるために必要な遺伝子が存在しないためです。そこで、遺伝子組換え技術を使い、これまで不可能とされていた新しい色の花の開発・研究が進められました。1997年、ペチュニアの青い色素の遺伝子を組み込んで開発された、世界初の青紫色のカーネーションの販売が始まりました。さらに、2009年にはパンジーの青い色素の遺伝子を組み込むことによって誕生した、世界初の青色のバラの販売も開始されました。不可能を遺伝子組換え技術によって克服するー青いバラには新たに「夢かなう」という花言葉が与えられました。現在、日本をはじめ、北米や欧州など海外でも販売されています。ヨーロッパでは花嫁が青い物を身につけると幸せになるという言い伝えがあり、結婚のプレゼントとしての人気も高まっています。さらに、2017年には青い菊も開発されました。

医薬品成分を産生する植物

医薬品成分を植物に作らせる研究も進んでいます。日本では動物用医薬品で既に実用化されており、イヌ歯周病に対する治療薬としてイヌインターフェロンを産生する遺伝子組換えイチゴが2013年に動物用医薬品として承認され、販売されています。ヒト用医薬品としては、日本の製薬会社によって、タバコの葉でインフルエンザワクチンを作る研究が進められています。

低リグニンアルファルファ

植物の構成成分の一種であるリグニンは、家畜が消化しにくいためにその含有率が低いほど飼料としての品質が高いとされています。遺伝子組換え技術により飼料適正を高めた低リグニンアルファルファが開発され、主に北米で利用されています。

褐変を抑制したリンゴ

傷などによって褐変したリンゴは、見た目の悪さによって廃棄され、埋め立て処分されています。そして、埋め立て地は地球温暖化の一因であるメタンガスの主要な発生源になっています。このような無駄な廃棄を減らすため、傷が付いても褐変しにくい遺伝子組換えリンゴが開発され、2017年より米国で販売されています。

アクリルアミド生成量を低減したジャガイモ

ジャガイモを高温で加熱すると、発がん性を持つと考えられるアクリルアミドという化学物質が発生します。遺伝子組換え技術によってアクリルアミドの生成量を抑制したジャガイモが開発され、既に米国で販売されています。

ピンクパイナップル

パイナップル内在性のピンク色の色素リコピンを黄色のベータカロテンに変換する酵素の働きを抑え、果肉をピンク色にしたパイナップルです。コスタリカで栽培され、米国で販売されています。

スギ花粉症緩和米

スギ花粉症は今や国民病とも呼ばれており、患者数は年々増加の一途を辿っています。免疫療法によりこの症状を緩和させる目的で、農研機構がスギ花粉ペプチド含有米、いわばスギ花粉症緩和米を開発しました。このお米を定期的に食べることにより、花粉症によるアレルギー反応を抑えることができるというものです。現在、医薬品としての承認を目指して臨床研究が進められています。

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