更新日:2024年5月8日

日本における安全性審査の考え方と仕組み

日本で遺伝子組み換え作物を利用するには、環境に対する安全性(生物多様性への影響)、食品としての安全性、飼料としての安全性について、科学的な評価を行うことが法律で定められています。この審査をクリアした遺伝子組み換え作物だけが日本へ輸入され、国内での流通、利用、栽培などを許されます。

日本における安全性審査の仕組み

日本で遺伝子組み換え作物を利用するには、その用途ごとに国から安全性の評価を受ける必要があります。遺伝子組み換え作物に対する安全性評価は、環境に対する安全性(生物多様性への影響)、食品としての安全性、および飼料としての安全性の評価に大別されます。生物多様性への影響評価は、カルタヘナ法に基づいて農林水産省と環境省が行います。食品としての安全性評価は食品衛生法に基づき消費者庁が行い、飼料としての安全性評価は飼料安全法に基づき農林水産省が実施しています。これらの安全性審査によって承認されてはじめて、国内への輸入や栽培、食品、飼料としての利用が許可されます。

こうした安全性評価は、生物多様性条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書、経済協力開発機構(OECD)、世界貿易機関(WTO)、世界保健機構(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)により設置されたコーデックス委員会などが設定した国際基準に沿って実施されています。

日本における遺伝子組み換え作物の安全性審査の概要
日本における遺伝子組み換え作物の安全性審査の概要

実質的同等性

遺伝子組み換え食品の安全性評価の基本となる考え方は、1993年にOECDによって提唱された「実質的同等性(substantial equivalence)」という概念です1。すなわち、元の作物と比較することにより、安全性を評価するという方法です。遺伝子組み換え作物の特性や成分を調べ、比較対象となる既存の植物の特性や成分と比較します。その結果、組換えにより新たに加えられた形質以外は「実質的に同等である」とみなされれば、次に新たに加えられた形質について安全性評価を行うことになります。

リスクの考え方

毒性学の分野では、「リスク」は「ハザード」と「暴露量」の掛け合わせとして捉えられています。ハザードとは有害な影響の程度(有害性)のことであり、そのハザードに対象がどの程度暴露されるか(摂取するか)によってリスクが決定します。 リスク(Risk)= ハザード(Hazard)x 暴露量(Exposure) 化学物質による環境リスクの評価や、食品安全性の基準を定めるコーデックス委員会2も同様のアプローチをとっています。

16世紀の医者であり化学者でもあったパラケルススは、「全てのものは毒である。その服用量こそが毒であるか否かを決める」という格言を残しています。この言葉通り、リスクの無い食品はありません。水も飲み過ぎれば毒になりますし、猛毒のボツリヌス毒素は医薬品としても用いられています。ハザードに捕らわれすぎず、リスクを科学的に評価し適切に管理することが重要です。

また、リスクの分析は、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションの3要素からなるという考えがあります。専門家によるリスク評価、規制機関によるリスク管理、そして関係者間のリスクコミュニケーションが、独立に、かつ相互に連携しあうことで、よりよい成果が得られるとされています。日本における遺伝子組み換え作物の規制においても、このリスク分析の考えが導入されています。

1OECD (1993). Safety Evaluation of Foods Derived by Modern Biotechnology: Concepts and Principles.
http://www.oecd.org/chemicalsafety/biotrack/41036698.pdf
2Codex Alimentarius Commission (2016). Procedural Manual Twenty-fifth edition. WHO/FAO.
http://www.fao.org/3/a-i5995e.pdf

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