よくある質問 - 検証編
質問
更新日:2022年11月28日
「承認されている遺伝子組み換え作物も、アレルギーの危険がある」というのは本当ですか。
回答
結論
遺伝子の導入によって新たに作られたタンパク質がアレルギーの原因とならないかについては、国際基準に則って特に詳しく調べられており、その可能性は極めて低いことが確認されています。事実、これまでに商品化された遺伝子組み換え食品の中で、新たに作られたタンパク質が原因でアレルギーが引き起こされたという事例はありません。
発端
2002年にオランダの研究者クレター(Gijs A Kleter)が、遺伝子組み換え作物中に新しく作られたタンパク質と、既に知られているアレルゲン(アレルギーの原因物質)のアミノ酸配列の比較を、当時の安全性評価で行われている方法と条件を変えて行ったところ、より多くのアレルゲンとの一致がみられたと発表しました。具体的には、当時の安全性審査では、8つのアミノ酸の並び順が一致しているかを調べていますが、6つに減らして調べたというものです。(*1) この論文を発表したクレター自身は、このタンパク質が本当にアレルゲンになる可能性があるかどうかを判定するためには、さらに確認試験が必要であると結論付けています。
検証
複数の調査項目を総合的に検討し、事案ごとに慎重に安全性を確認しています
安全性評価の際には、遺伝子組み換え作物に新たに組み込まれたタンパク質がアレルゲンにならないかについては特に詳しく多方面から調べられています。
調査する項目は以下の通りです。
- 組み込む遺伝子の供与体のアレルギー誘発性に関する知見
- 新たなタンパク質のアレルギー誘発性に関する知見
- 新たなタンパク質の物理学的処理(人工胃液、人工腸液、加熱など)に対する感受性
- 新たなタンパク質と既知のアレルゲンとの構造的な相同性
議論になった項目は、「生じるタンパク質と既知のアレルゲンとの構造的な相同性」についてです。タンパク質は20種類のアミノ酸がつながって出来ています。アレルゲンとなるアミノ酸配列と似ているものは、アレルギー反応を引き起こす可能性が高いと考えられることから、アミノ酸配列について調べます。
例えば、調査するアミノ酸配列を8つから6つにするとしたら、以下の問題点が生じます。
6つの配列を比較することについての問題点
アミノ酸の並び順が8個一致する箇所を調べるより、6個という短いもので比較すると、当然、一致する確率は400倍(20アミノ酸x20アミノ酸)も高くなります。例えば、食品の中でもトウモロコシはアレルギーになる人が最も少ないといわれていますが、そのトウモロコシ中に含まれる、これまでにアレルギーを引き起こしたことが報告されていない50個のタンパク質でさえも、41個のタンパク質(82%)が、既に知られているアレルゲンと一致するアミノ酸配列を持っていると判定されてしまいます。すなわち、この方法では偽陽性(本当はそうでないのに、そうだと結論してしまうこと)の率が非常に高くなり、正しい検証ができなくなってしまうのです。(*2)
食品安全委員会の遺伝子組み換え食品専門調査会の見解でも、アミノ酸配列の相同性検索を7つ、または6つの連続したアミノ酸で行うと、アレルギーを引き起こす可能性がない多くのタンパク質まで相同性があるという結果が出てしまうと指摘しています。(*3)
アレルギーを引き起こさないかどうか、さまざまな角度から安全性が確認されています
2003年にコーデックスから出された指針では、調査するアミノ酸配列の長さは特定しておらず、偽陽性の少ない条件を用いるべきであると記載されています。現在は、アミノ酸配列の相同性に加えて、全体的な相同性検索や、そのタンパク質の消化性や加熱による分解性など、さまざまな試験の結果を総合的に検討し、事案ごとに慎重に安全性を確認しています(*4)
遺伝子組み換え食品は、アレルギーについて詳細に調べられており、従来の食品と比較して同じように食べても安全であることが確認されています。(*3)
参照
(*1) K. Redenbaugh et al.(1993)In Vitro Cell Dev. Biol., Vol.29P, 17-26
(*2) Hileman, R.E., Silvanovich, A., Astwood, J.D., Hefle, S. L. (Submitted, July, 2001). A Bioinformatics Approach to the Assessment of the Allergenicity of Foods Produced through Agricultural Biotechnology. Adv. Food Nutr. Res.
(*3) 「遺伝子組み換え食品(種子植物)の安全性評価基準」案についての御意見・情報の募集結果について(専門調査会回答)
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/iken-kekka/kekka-gmkijun.pdf(*4) 食品安全委員会「遺伝子組み換え食品(種子植物)の安全性評価基準(平成16年1月29日 食品安全委員会決定)」
http://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/gm_kijun.pdf
関連記事を見る
遺伝子組み換え作物の安全性
基礎編
食品・飼料編
- 日本で流通している遺伝子組み換え食品にはどのようなものがありますか 。
- 遺伝子組み換え食品の安全性は、誰がどのように確認しているのですか。
- 遺伝子組み換え作物を使った食品は、どのように表示されますか。
- 遺伝子組み換え食品を食べ続けても大丈夫ですか。
- 食べたら害虫が死んでしまうような遺伝子組み換え作物を人間や家畜が食べても平気ですか。
- アレルギーを引き起こす心配はありませんか。
- 飼料として使われる遺伝子組み換え農作物の安全性は確認されているのですか。また、遺伝子組み換え飼料で育った家畜の肉や乳、卵を食べても大丈夫ですか。
- 除草剤耐性作物の栽培に使用されるグリホサートの安全性について教えてください。
- グリホサートの発がん性について、世界の規制当局と国際がん研究機関 (IARC) で評価が異なるのはどうしてでしょうか。
環境編
- 環境に対する影響はありませんか。
- 害虫抵抗性トウモロコシを害虫以外のチョウの幼虫などが食べて死んだりしませんか。
- 害虫に強い遺伝子組み換えトウモロコシを栽培し続けると、害虫の抵抗力が増して、害虫抵抗性の効果がなくなることはありませんか。
- 除草剤の影響を受けない作物の栽培によって農薬の使用量が増えませんか。
- 除草剤の影響を受けない植物が雑草化してしまったらどうするのですか。 また、その遺伝子が雑草に移って除草剤をまいても枯れない雑草が繁殖してしまったらどうするのでしょうか。
- こぼれ落ちた遺伝子組み換え作物が日本の生物多様性に悪影響を与えることはありませんか。
- 遺伝子組み換え作物の普及によって単一栽培が進み、品種の多様性が失われてしまったり、農業や食糧が特定の企業によって支配されてしまったりすることはないでしょうか。
- 遺伝子組み換え作物を栽培することで、環境に対してどのようなメリットが期待できますか。
- 遺伝子組み換え作物の栽培では、農家は毎年種子を購入する必要があると聞きましたが本当ですか。
- 遺伝子組み換え作物との交配により除草剤の効かないスーパーウィードが出現していると聞きましたが本当ですか。
テクノロジー編
検証編
- 「遺伝子組み換えトウモロコシを2年間ラットに与えたところ、乳がんや脳下垂体異常、肝障害を発症した」という論文が発表されたと聞きましたが、本当に大丈夫ですか。
- 「遺伝子組み換えダイズを食べたラットから生まれた仔ラットの死亡率が高く、成長も遅かった」という実験結果を聞きましたが、本当でしょうか。
- 「遺伝子組み換えジャガイモをラットに食べさせる実験を行ったところ、免疫力が低下した」というのは本当ですか。
- 「遺伝子組み換え食品を食べると、抗生物質が効かなくなる」というのは本当ですか。
- 「承認されている遺伝子組み換え作物も、アレルギーの危険がある」というのは本当ですか。
- 「遺伝子組み換えダイズが含まれるハンバーガーを食べたヒトの腸内細菌から除草剤耐性菌が検出された」と聞きましたが、本当に食べ続けても大丈夫なのでしょうか。
- 「遺伝子組み換えダイズを栽培したところ、非遺伝子組み換えのものより収量が減った」という報告は本当ですか。
中高生から寄せられた質問
- 流通している遺伝子組み換え作物の種類は限られていますが、新たな遺伝子組み換え作物の開発には何かしらの障壁やデメリットがあるのでしょうか。 (2023年11月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品に危険性がないことを証明することは難しいのではないでしょうか。 (2023年11月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品の安全性や事実を世界に広めるためにするべきことは何ですか。 (2023年11月・高校生)
- 将来遺伝子組み換え技術に期待すること、また、そのために必要となる研究や技術はどのようなものですか。(2023年11月・高校生)
- 安全な遺伝子組み換え作物の種類を増やすときにネックとなる要素は何ですか。(技術面か、費用面か、規制面か、など) (2023年11月・高校生)
- 安全性審査を通らなかった遺伝子組み換え食品はどのくらいありますか。またもしあれば、それらは健康や環境にどのような悪影響を及ぼすと考えられますか。 (2023年11月・高校生)
- 将来予想される遺伝子組み換え食品の使用率は何%ぐらいですか。(2023年2月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品の1番解決しなければならない課題を教えて下さい。(2023年2月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品は気候に関係なく生産することはできますか。(2023年2月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品は日本で生産することができますか。(2023年2月・高校生)
- 遺伝子組み換えを行うことによる1番の利点を教えて下さい。(2023年2月・高校生)
- カナダで行われた調査で93%の妊婦、80%の胎児の血液から遺伝子組み換えトウモロコシに含まれるBt毒素(害虫を殺す成分)が発見されたと、あるNPO法人のホームページにありましたが、安全性をどのように周知していくのがよろしいでしょうか。 (2022年10月・高校生)
- 遺伝子組み換え食品の健康被害についてです。例えば、害虫が食べたら死んでしまうような遺伝子組み換え作物を人間が食べても平気なのでしょうか。(2022年10月・高校生)
- 遺伝子組み換えをする際にどのようにしてそれらの耐性を持った部分の遺伝子配列を解明しているのか教えて頂きたいです。(2022年5月・高校生)
- 遺伝子組み換えによって高温や、多湿に耐性を持った遺伝子組み換え作物の例があれば教えて頂きたいです。(2022年5月・高校生)
- 日本や、海外で小麦における高温や、多湿に耐性を持った遺伝子組み換え作物の研究がされているか教えて頂きたいです。(2022年5月・高校生)
- 未来は遺伝子組み換え作物でどう変わっていくのですか? (2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物を開発するうえで一番大切にしていることはなんですか? (2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物で花粉症の症状を和らげることに成功したと聞きましたが、そのことをどのように思っていますか。他にも成功した例、今後出てきそうな例はありますか?(2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物を食べて人間のDNAが変わってしまったり機能が失われたりすることはありますか? (2020年11月・中学生)