よくある質問 - 食品・飼料編

質問

グリホサートの発がん性について、世界の規制当局と国際がん研究機関 (IARC) で評価が異なるのはどうしてでしょうか。

回答

国際がん研究機関 (IARC) はリスクではなくハザードに基づいて発がん性を分類しています。

世界の専門家や規制機関がグリホサートに発がん性は無いと結論している他方で、世界保健機関 (WHO) の下部組織である国際がん研究機関 (IARC) が、2015年3月にグリホサートをグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類しました。

IARCによる分類 (Volumes 1–125, 2020年3月3日時点)

グループ1 ヒトに対して発がん性がある

Carcinogenic to humans

120因子

(アルコール飲料、加工肉、太陽光ばく露、喫煙、木材のちり、皮革のちり等)

グループ2A ヒトに対しておそらく発がん性がある

Probably carcinogenic to humans

83因子

(グリホサート、赤肉、夜間勤務、65度を超える熱い飲料、職業としての美容師や理容師等)

グループ2B ヒトに対する発がん性が疑われる

Possibly carcinogenic to humans

314因子

(携帯電話などで利用される無線周波電磁界、漬物、鉛等)

グループ3 ヒトに対する発がん性について分類できない

Not classifiable as to its carcinogenicity to humans

500因子

世界の規制機関とIARC、両者で評価が一致していないのはなぜでしょうか。理由の一つは、評価目的の違いにあるでしょう。その違いについて触れる前に、科学的根拠に基づいた規制上の意思決定を支援するための科学 (レギュラトリーサイエンス) について少し触れてみましょう。食品や環境中に存在する農薬などの化学物質のリスク評価はレギュラトリーサイエンスの代表的分野の一つであり、科学的な方法論が確立しています。すなわち、ある化学物質のリスクを評価する際、第一段階としてその化学物質自体にどのような有害性 (ハザード) があるのかを評価します。続いて、食品からの摂取や環境からの曝露など様々な経路を考慮した上で、その化学物質への曝露量を評価します。最終的に、ハザードと曝露量に基づいて、その化学物質の危険性 (リスク) を定量的に評価します。身近な例で例えれば、太陽光 (紫外線) は皮膚がんのハザードです。IARCの分類では、グループ1「ヒトに対して発がん性がある」とされています。しかし、だからといって太陽光を禁止することは不可能です。日よけや帽子は着用しているのか、日焼け止めは使用しているのかなど、曝露の量を制限する様々な要因によって、そのリスクは大きく変わってきます。このレギュラトリーサイエンスのリスク評価手法に則り、世界の規制機関はグリホサートの「リスク」を評価し、「発がん性は無い」と判断しています。

一方で、IARCによる分類は、IARC自身が述べているように、ヒトに対する発がん性の「ハザード」としての科学的根拠の強さを評価したものにすぎません (IARC, 2019)。そのため、IARCの分類では、赤肉、夜間勤務、熱い飲み物などが、グリホサートと同等にグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類されています。

 

米国環境保護庁 (EPA) は、IARCによる評価よりもEPAによる評価が「より堅牢で、透明性が高い」とコメントしています。

IARCと各国の評価機関では、「ハザード」の評価過程にも違いがあります。例えば、IARCによるグリホサートのハザード評価においては、公表された論文または公表予定のデータの一部のみを検討の対象にしています。その一方で、各国の安全性評価機関は、このような科学論文に加え、厳しい条件の定めのあるGLP (優良試験所基準) に準拠した多くの毒性試験の結果も含めて評価を行った上で、グリホサートの発がん性を否定しています。

さらに、米国環境保護庁 (EPA) の評価では、IARCによるグリホサートの分類公表後の2018年に出版された、米国国立がん研究所が支援した農業従事者健康調査 (Agricultural Health Study) の結果も検討の対象としています。この研究は、米国の認定農薬散布者5万人以上を20年以上にわたり追跡した最大かつ最新の疫学調査で、グリホサートを有効成分とする除草剤の使用と非ホジキンリンパ腫 (NHL) を含むいかなるリンパ系腫瘍や固形腫瘍の間に関連性を認めていません (Andreotti et al 2018)。

EPAは、グリホサートのリスク評価に関するパブリックコメントの期間中に寄せられたコメントに対する回答のなかで、IARCとEPAによる評価の違いに対して以下のように詳しく説明していますので、ご参考にしてください。

「EPAのがん評価は、IARCによる評価より堅牢なものである。IARCの評価では、一般に入手可能な科学誌に発表された、または発表に向けて受理されたデータのみを検討している。その結果、IARCは、EPAが評価対象とした研究の一部のみを検討するに留まっている。例えば、IARCは動物を対象とした発がん性試験として8件のみを検討したが、EPAでは基準に見合う発がん性試験として15件を評価に使用した。EPAはまた、IARCが評価に使用した研究のうち、非哺乳類 (すなわち、線虫、魚類、爬虫類、植物) の研究など、グリサホートのヒトに対する発がん性の判定には不適切な研究のいくつかを除外した。

また、EPAのグリホサートに関するがん評価は、透明性もより高いものである。EPAは、外部のピアレビューを受けるべく、がん評価案を連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法 (FIFRA) の科学諮問委員会 (Scientific Advisory Panel, SAP) に提示した。SAPによる評価プロセスの一環として、EPAはグリホサートの発がん性に関するパブリックコメントを求め、寄せられたコメントは協議事項や会議録、会議メモ、SAPの最終報告書とともに、きちんと文書化されている。EPAはSAPの報告書に回答し、委員会の勧告に対処し、また、従来のがん評価に改定を加え、透明性を保つべく広く公開した。さらに2018年2月には、EPAは、グリホサートのヒトの健康への影響および環境リスクに関する全面的な評価についてもパブリックコメントを求めた。これとは対照的に、IARCの会議は公開されていない。IARCの審議内容は非公開であり、そのプロセスにおいてパブリックコメントを受け付けて検討することはなく、会議に先立って提供される資料もなく、また、IARCの報告書は外部のピアレビューを経ずに最終版となる。」

 

参考
除草剤耐性作物の栽培に使用されるグリホサートの安全性について教えてください。

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