よくある質問 - 検証編

質問

「遺伝子組み換えダイズを食べたラットから生まれた仔ラットの死亡率が高く、成長も遅かった」という実験結果を聞きましたが、本当でしょうか。

回答

結論

この実験はロシアの科学者イリーナ・エルマコバ(Irina Ermakova)博士が行ったものですが、実験の条件に不明な点が多すぎ、同じように試験を繰り返しても同じ結果が得られない(再現性がない)と考えられ、英国食品基準庁から、「この実験からいかなる科学的で客観的な結論も引き出すことはできない」との声明が出され、複数の機関や専門家からも問題点が指摘されています。このことから、エルマコバ博士の実験は、遺伝子組み換えダイズの安全性について科学的に検証したとはいえないとされています。日本の厚生労働省、農林水産省も、「わが国では、全ての遺伝子組み換え食品について、食品安全委員会において安全性評価が行われており、遺伝子組み換えダイズを食する場合でも問題はありません」と結論づけています。

発端

ロシア科学アカデミー高次機能・神経行動学研究所所属のイリーナ・エルマコバ博士は、2005年10月、ロシア遺伝子組み換えシンポジウムにおいて、「除草剤耐性の遺伝子組み換えダイズをラットに食べさせたところ、生まれた仔ラットは生後3週間で過半数(55.6%)が死亡し、成長も遅かった」と発表しました(*1)。「通常の飼料を与えた場合(死亡率6.8%)や、普通のダイズ(非遺伝子組み換え)を与えた場合(死亡率9%)と比べて、ラットの死亡率が高まった」として、この報告を知った消費者団体などから、遺伝子組み換えダイズは次世代へ重大な影響を与えるのではないかとの懸念の声があがりました。

検証

この実験に対し、複数の機関や専門家から、以下のような問題点が指摘されています。

遺伝子組み換えダイズを与えていないグループでもラットの発育が悪い

今回の試験結果では、遺伝子組み換えダイズを与えていないグループでも仔ラットの発育が悪いことが指摘されています(表1)。 対照群で、大きい仔ラットは40~50gであるのに対し、30g以下が半数もいます。通常、対照群の体重のばらつきは、せいぜい10%以内に抑えられているものであり、そうでなければ信頼度の高い結果とはみなされません。 また、普通のダイズを与えた群では、30g以下の仔ラットが実に8割も占めています。遺伝子組み換えダイズを与えていないグループでも、これだけ発育不良がみられるということは、栄養状態や飼育管理そのものに問題があった可能性をうかがわせる結果です。

表1:各グループの仔ラットの体重分布(2週間後)

与えた飼料 50~40g 40~30g 30~20g 20~10g
通常飼料(対照群) 12.5% 37.5% 44% 6%
通常飼料+遺伝子組み換えダイズ 0% 23% 41% 36%
通常飼料+普通のダイズ 0% 20% 73.3% 6.7%

安全性を評価する国際的なガイドラインなどに沿った試験方法ではない

生まれてくる仔への影響を調べるために行われる動物試験には、繁殖毒性試験や催奇形性試験(奇形の仔が生まれないかどうか調べる)があり、国際的に確立された方法がガイドラインなどに定められています。安全性を評価するための動物試験は、まずガイドラインに則って実施されることが必要であり、このガイドラインに従って行われていれば、結果も信頼度が高いデータであるとみなされています。しかし、今回の試験は、国際的な動物試験のガイドラインに沿ったものではありませんでした。

動物の数が少なすぎる

標準的な2世代繁殖毒性試験では、1群につき親世代で最低20組の雌雄のラットを用いますが(*2)、今回の試験では、遺伝子組み換えダイズを与えた群は6組、普通のダイズを与えた群は3組、通常飼料のみを与えた対照群は6組しか用意していません。 傾向をつかむために行うような予備的な実験でも最低8組程度は用意するのが一般的なので、それ以下の場合は、科学的に何か導き出せるような実験結果とみなされないと専門家は指摘しています。

仔ラットを適切に選抜しておらず、発育不良の原因になった可能性がある

通常、ラットの親1組からは、10匹以上の仔ラットが生まれます。しかしこのままでは母ラットのミルクが仔ラットに十分にいきわたらずに、発育不良となってしまうので、一般的な2世代繁殖試験では、生後4日に雌雄各4匹になるよう余分な新生児を取り除き、母ラットが育てる仔ラットの数をそろえます。生後3週間後の離乳時に雌雄各1または2匹を選抜し、育成後に繁殖させて孫世代までの影響を確認します(*2)。ところが、エルマコバ博士はそのような処理を行っていないので、仔ラットに栄養がいきわたらず、これが発育不良の原因となった可能性があります。
エルマコバ博士は「遺伝子組み換えダイズを食べさせた雌ラット4匹から、仔ラットが45匹生まれたが、3週間後には25匹(55.6%)が死亡した」としていますが、この場合、親は4組なので、実験データとして用いることができる仔ラットは本来、雌雄各4匹または8匹です。仔ラット45匹という数だけみると、大規模に実施されたかのような印象を受けますが、標準的な方法で実施されていればこのような数は導き出されません。

飼料の成分自体に問題があり、発育不良となった可能性がある

通常、ラットの親1組からは、10匹以上の仔ラットが生まれます。しかしこのままでは母ラットのミルクが仔ラットに十分にいきわたらずに、発育不良となってしまうので、一般的な2世代繁殖試験では、生後4日に雌雄各4匹になるよう余分な新生児を取り除き、母ラットが育てる仔ラットの数をそろえます。生後3週間後の離乳時に雌雄各1または2匹を選抜し、育成後に繁殖させて孫世代までの影響を確認します(*2)。ところが、エルマコバ博士はそのような処理を行っていないので、仔ラットに栄養がいきわたらず、これが発育不良の原因となった可能性があります。
エルマコバ博士は「遺伝子組み換えダイズを食べさせた雌ラット4匹から、仔ラットが45匹生まれたが、3週間後には25匹(55.6%)が死亡した」としていますが、この場合、親は4組なので、実験データとして用いることができる仔ラットは本来、雌雄各4匹または8匹です。仔ラット45匹という数だけみると、大規模に実施されたかのような印象を受けますが、標準的な方法で実施されていればこのような数は導き出されません。

実験の条件に不明な点が多すぎるため、再現性がないと考えられる

実験結果が科学的に信頼できるものであるかを判断するうえで、最も重要なことは、「再現性」があるかどうかです。つまり、誰がどこで何回試験しても、同じ結果が得られるのであれば、そのデータの信憑性は高いといえます。しかし、同じように試験を繰り返してみても、結果を再現できないのであれば、単なる偶然の産物か、あるいは実験ミスである可能性が高いといわざるを得ません。
実験を再現するためには、実験の方法や条件が明らかにされていることが大前提です。逆に言えば、実験条件が不明確であり、再現できないような実験は、データとしての意味を成しません。 エルマコバ博士の実験報告には、通常飼料の組成や摂取量、遺伝子組み換えダイズの割合や摂取量などの重要な情報についての記載がなく不明で、この実験を再現することができません。

この報告に対して、各機関からいくつもの疑問点が指摘されています

英国食品基準庁「新規食品と製造工程に関する諮問委員会(ACNFP)」はこの実験について、『報告の中で多くの重要な情報がない以上、この実験からいかなる結論も導き出すことはできない』との声明を発表しています(*3)。その他にも問題点として、「死亡したラットの死因に関するデータがない。」「マイコトキシン(カビ類が産生する毒素の総称)等、混入物の存在を否定する情報がない。」ことなどを指摘しています。
生殖毒性試験の専門家などからも、 飼料の与え方や飼育方法がずさんであったとこが大きく影響した可能性が指摘されており 、遺伝子組み換えダイズの安全性について科学的に検証したとはいえないとされています。

この遺伝子組み換えダイズの安全性は多くの試験によって確認されています

日本の厚生労働省(*4)、農林水産省も、ACNFPの声明を紹介してこの報告の問題点を明らかにするとともに、『わが国では、全ての遺伝子組み換え食品について、食品安全委員会において安全性評価が行われており、遺伝子組み換えダイズを食する場合でも問題はありません』と結論づけています。
また、東京都でもマウスを用いて、遺伝子組み換えダイズを含む飼料を13週間摂取させた親から生まれた子を交配させ子供を産ませて、二世代にわたり影響を確認したところ、交配率、妊娠率、出産率、出生仔の数や発育状態に問題はなく、遺伝子組み換えダイズの次世代への影響はないものと考えられると報告しています。
なお、マウス4世代に渡る試験で、遺伝子組み換えダイズは死亡率や成長に影響を与えないことが論文にて報告されています(*5)。また、ラット、ニワトリ、ナマズ、乳牛への給餌試験も多数行われていますが、安全性の問題は指摘されていません(*6)(*7)(*8)。これらの論文は、専門家による査読を経て認められたうえで掲載されているものであり、より信頼度が高い報告であるといえます。

【備考】エルマコバ博士は同様の試験を追試し、追加したデータも発表しておりますが、本検証は当初発表した試験結果(*1)に基づいて行いました。

 

参照

(*1) Irina Ermakova(2006): Influence of genetically modified soya on the birth-weight and survival of rat pups In Proceedings of the Conference Epigenetics, Transgenic Plants &Risk Assessment, pp. 41-48
http://www.oeko.de/oekodoc/277/2006-002-en.pdf
(*2)厚生労働省生活衛生局長通知
「食品添加物の指定及び使用基準改正に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syokuten/960322/betu.html
(*3) 英国食品基準庁「新規食品と製造工程に関する諮問委員会(ACNFP)」
“Statement on the effect of GM soya on newborn rats”
http://acnfp.food.gov.uk/acnfppapers/gmissues/acnfpgmsoya (*4) 厚生労働省医薬食品局食品安全部 「遺伝子組換え食品Q&A」
遺伝子組換えダイズを食べたラットから生まれたラットで死亡率の上昇や成長阻害が見られたという報告があると聞きましたが、その事実関係を教えてください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/qa/qa.html#D-17 (*5) Brake DG, Evenson DP.(2004):A generational study of glyphosate-tolerant soybeans on mouse fetal,postnatal, pubertal and adult testicular development, Food and Chemical Toxicology 42:29-36
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=14630127&dopt=Abstract(*6) Bruce Hammond et al.(1996):The Feeding Value of Soybeans Fed to Rats, Chickens, Catfish and Dairy Cattle Is Not Altered by Genetic Incorporation of Glyphosate Tolerance, Journal of Nutrition 126 (3) :717-727
http://jn.nutrition.org/content/126/3/717.full.pdf (*7)手島玲子ら(2000):遺伝子組換え, 非組換えダイズのマウス, ラットへの混餌投与による免疫系への影響、日本食品衛生学会誌Vol.41:188-193
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi/41/3/41_3_188/_article/-char/ja/ (*8) Yuanzhao Zhu at al.(2004): Nutritional assessment and fate of dna of soybean meal from roundup ready or conventional soybeans using rats,Animal Nutrition 58 (4):295-310
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00039420412331273277

 

●もっと詳しく(外部サイト)
ILSI Japan バイオテクノロジー研究部会:「遺伝子組み換え作物を理解するⅡ」(21-24ページ)
ロシアの Ermakova が、『遺伝子組み換えダイズを投与したラットでは、生まれた仔ラットの死亡率が高く、成長阻害が見られた』という研究結果を発表した」との指摘について
http://www.ilsijapan.org/ILSIJapan/COM/Bio2010/rikaisuru2-2.pdf

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