よくある質問 - 食品・飼料編
質問
更新日:2022年11月28日
グリホサートの発がん性について、世界の規制当局と国際がん研究機関 (IARC) で評価が異なるのはどうしてでしょうか。
回答
国際がん研究機関 (IARC) はリスクではなくハザードに基づいて発がん性を分類しています。
世界の専門家や規制機関がグリホサートに発がん性は無いと結論している他方で、世界保健機関 (WHO) の下部組織である国際がん研究機関 (IARC) が、2015年3月にグリホサートをグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類しました。
IARCによる分類 (Volumes 1–125, 2020年3月3日時点)
グループ1 | ヒトに対して発がん性がある
Carcinogenic to humans |
120因子
(アルコール飲料、加工肉、太陽光ばく露、喫煙、木材のちり、皮革のちり等) |
グループ2A | ヒトに対しておそらく発がん性がある
Probably carcinogenic to humans |
83因子
(グリホサート、赤肉、夜間勤務、65度を超える熱い飲料、職業としての美容師や理容師等) |
グループ2B | ヒトに対する発がん性が疑われる
Possibly carcinogenic to humans |
314因子
(携帯電話などで利用される無線周波電磁界、漬物、鉛等) |
グループ3 | ヒトに対する発がん性について分類できない
Not classifiable as to its carcinogenicity to humans |
500因子 |
世界の規制機関とIARC、両者で評価が一致していないのはなぜでしょうか。理由の一つは、評価目的の違いにあるでしょう。その違いについて触れる前に、科学的根拠に基づいた規制上の意思決定を支援するための科学 (レギュラトリーサイエンス) について少し触れてみましょう。食品や環境中に存在する農薬などの化学物質のリスク評価はレギュラトリーサイエンスの代表的分野の一つであり、科学的な方法論が確立しています。すなわち、ある化学物質のリスクを評価する際、第一段階としてその化学物質自体にどのような有害性 (ハザード) があるのかを評価します。続いて、食品からの摂取や環境からの曝露など様々な経路を考慮した上で、その化学物質への曝露量を評価します。最終的に、ハザードと曝露量に基づいて、その化学物質の危険性 (リスク) を定量的に評価します。身近な例で例えれば、太陽光 (紫外線) は皮膚がんのハザードです。IARCの分類では、グループ1「ヒトに対して発がん性がある」とされています。しかし、だからといって太陽光を禁止することは不可能です。日よけや帽子は着用しているのか、日焼け止めは使用しているのかなど、曝露の量を制限する様々な要因によって、そのリスクは大きく変わってきます。このレギュラトリーサイエンスのリスク評価手法に則り、世界の規制機関はグリホサートの「リスク」を評価し、「発がん性は無い」と判断しています。
一方で、IARCによる分類は、IARC自身が述べているように、ヒトに対する発がん性の「ハザード」としての科学的根拠の強さを評価したものにすぎません (IARC, 2019)。そのため、IARCの分類では、赤肉、夜間勤務、熱い飲み物などが、グリホサートと同等にグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類されています。
米国環境保護庁 (EPA) は、IARCによる評価よりもEPAによる評価が「より堅牢で、透明性が高い」とコメントしています。
IARCと各国の評価機関では、「ハザード」の評価過程にも違いがあります。例えば、IARCによるグリホサートのハザード評価においては、公表された論文または公表予定のデータの一部のみを検討の対象にしています。その一方で、各国の安全性評価機関は、このような科学論文に加え、厳しい条件の定めのあるGLP (優良試験所基準) に準拠した多くの毒性試験の結果も含めて評価を行った上で、グリホサートの発がん性を否定しています。
さらに、米国環境保護庁 (EPA) の評価では、IARCによるグリホサートの分類公表後の2018年に出版された、米国国立がん研究所が支援した農業従事者健康調査 (Agricultural Health Study) の結果も検討の対象としています。この研究は、米国の認定農薬散布者5万人以上を20年以上にわたり追跡した最大かつ最新の疫学調査で、グリホサートを有効成分とする除草剤の使用と非ホジキンリンパ腫 (NHL) を含むいかなるリンパ系腫瘍や固形腫瘍の間に関連性を認めていません (Andreotti et al 2018)。
EPAは、グリホサートのリスク評価に関するパブリックコメントの期間中に寄せられたコメントに対する回答のなかで、IARCとEPAによる評価の違いに対して以下のように詳しく説明していますので、ご参考にしてください。
「EPAのがん評価は、IARCによる評価より堅牢なものである。IARCの評価では、一般に入手可能な科学誌に発表された、または発表に向けて受理されたデータのみを検討している。その結果、IARCは、EPAが評価対象とした研究の一部のみを検討するに留まっている。例えば、IARCは動物を対象とした発がん性試験として8件のみを検討したが、EPAでは基準に見合う発がん性試験として15件を評価に使用した。EPAはまた、IARCが評価に使用した研究のうち、非哺乳類 (すなわち、線虫、魚類、爬虫類、植物) の研究など、グリサホートのヒトに対する発がん性の判定には不適切な研究のいくつかを除外した。
また、EPAのグリホサートに関するがん評価は、透明性もより高いものである。EPAは、外部のピアレビューを受けるべく、がん評価案を連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法 (FIFRA) の科学諮問委員会 (Scientific Advisory Panel, SAP) に提示した。SAPによる評価プロセスの一環として、EPAはグリホサートの発がん性に関するパブリックコメントを求め、寄せられたコメントは協議事項や会議録、会議メモ、SAPの最終報告書とともに、きちんと文書化されている。EPAはSAPの報告書に回答し、委員会の勧告に対処し、また、従来のがん評価に改定を加え、透明性を保つべく広く公開した。さらに2018年2月には、EPAは、グリホサートのヒトの健康への影響および環境リスクに関する全面的な評価についてもパブリックコメントを求めた。これとは対照的に、IARCの会議は公開されていない。IARCの審議内容は非公開であり、そのプロセスにおいてパブリックコメントを受け付けて検討することはなく、会議に先立って提供される資料もなく、また、IARCの報告書は外部のピアレビューを経ずに最終版となる。」
基礎編
食品・飼料編
- 日本で流通している遺伝子組み換え食品にはどのようなものがありますか 。
- 遺伝子組み換え食品の安全性は、誰がどのように確認しているのですか。
- 遺伝子組み換え作物を使った食品は、どのように表示されますか。
- 遺伝子組み換え食品を食べ続けても大丈夫ですか。
- 食べたら害虫が死んでしまうような遺伝子組み換え作物を人間や家畜が食べても平気ですか。
- アレルギーを引き起こす心配はありませんか。
- 飼料として使われる遺伝子組み換え農作物の安全性は確認されているのですか。また、遺伝子組み換え飼料で育った家畜の肉や乳、卵を食べても大丈夫ですか。
- 除草剤耐性作物の栽培に使用されるグリホサートの安全性について教えてください。
- グリホサートの発がん性について、世界の規制当局と国際がん研究機関 (IARC) で評価が異なるのはどうしてでしょうか。
環境編
- 環境に対する影響はありませんか。
- 害虫抵抗性トウモロコシを害虫以外のチョウの幼虫などが食べて死んだりしませんか。
- 害虫に強い遺伝子組み換えトウモロコシを栽培し続けると、害虫の抵抗力が増して、害虫抵抗性の効果がなくなることはありませんか。
- 除草剤の影響を受けない作物の栽培によって農薬の使用量が増えませんか。
- 除草剤の影響を受けない植物が雑草化してしまったらどうするのですか。 また、その遺伝子が雑草に移って除草剤をまいても枯れない雑草が繁殖してしまったらどうするのでしょうか。
- こぼれ落ちた遺伝子組み換え作物が日本の生物多様性に悪影響を与えることはありませんか。
- 遺伝子組み換え作物の普及によって単一栽培が進み、品種の多様性が失われてしまったり、農業や食糧が特定の企業によって支配されてしまったりすることはないでしょうか。
- 遺伝子組み換え作物を栽培することで、環境に対してどのようなメリットが期待できますか。
- 遺伝子組み換え作物の栽培では、農家は毎年種子を購入する必要があると聞きましたが本当ですか。
- 遺伝子組み換え作物との交配により除草剤の効かないスーパーウィードが出現していると聞きましたが本当ですか。
テクノロジー編
検証編
- 「遺伝子組み換えトウモロコシを2年間ラットに与えたところ、乳がんや脳下垂体異常、肝障害を発症した」という論文が発表されたと聞きましたが、本当に大丈夫ですか。
- 「遺伝子組み換えダイズを食べたラットから生まれた仔ラットの死亡率が高く、成長も遅かった」という実験結果を聞きましたが、本当でしょうか。
- 「遺伝子組み換えジャガイモをラットに食べさせる実験を行ったところ、免疫力が低下した」というのは本当ですか。
- 「遺伝子組み換え食品を食べると、抗生物質が効かなくなる」というのは本当ですか。
- 「承認されている遺伝子組み換え作物も、アレルギーの危険がある」というのは本当ですか。
- 「遺伝子組み換えダイズが含まれるハンバーガーを食べたヒトの腸内細菌から除草剤耐性菌が検出された」と聞きましたが、本当に食べ続けても大丈夫なのでしょうか。
- 「遺伝子組み換えダイズを栽培したところ、非遺伝子組み換えのものより収量が減った」という報告は本当ですか。
中高生から寄せられた質問
- 日本や、海外で小麦における高温や、多湿に耐性を持った遺伝子組み換え作物の研究がされているか教えて頂きたいです。(2022年5月・高校生)
- 未来は遺伝子組み換え作物でどう変わっていくのですか? (2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物を開発するうえで一番大切にしていることはなんですか? (2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物で花粉症の症状を和らげることに成功したと聞きましたが、そのことをどのように思っていますか。他にも成功した例、今後出てきそうな例はありますか?(2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換え作物を食べて人間のDNAが変わってしまったり機能が失われたりすることはありますか? (2020年11月・中学生)
- 遺伝子組み換えによって、狙ったところ以外のDNA配列に影響を与えてしまう(突然変異)可能性はどのくらいありますか?(2020年11月・中学生)
- 人間の解明されている遺伝子は全体の2%だけですが、野菜・果物などはどれくらいわかっているのですか。仮にある野菜のゲノムが100%解明されたら、その野菜に行う遺伝子組み換えは安全になりますか? (2020年11月 ・中学生)
- 現在、主に遺伝子組み換え作物の中で、とうもろこし、菜種、大豆などが日本に輸入されてきていますが、これからより多くの遺伝子組み換え作物が日本に輸入されると思われますか。また、日本では遺伝子組み換え作物の栽培が進められますか。(2020年11月・高校生)
- 現在国で流通が認められている大豆やとうもろこしなどの作物以外に、これから流通するだろうと思う作物はありますか(2021年1月・高校生)
- 日本と海外では、どのくらい遺伝子組み換え技術の進歩に差がありますか。可能な限り最新の情報が欲しいです。(2021年1月・高校生)
- 遺伝子組み換え作物をつくるためにはどのくらいの時間がかかるのですか?(2020年11月・中学生)
- 除草剤耐性、害虫耐性の遺伝子組み換え作物を栽培することによって、一般のものと比べてどのくらい生産効率は上がりますか? (2022年1月・高校生)
- 遺伝子組み換えの技術を利用することにより、解決できる問題はありますか。(2020年11月・高校生)
- 私たちは遺伝子組み換え食品で飢餓や貧困は無くせるのかというテーマで調べていくうちに、この問題を遺伝子組み換え食品だけで解決するのは難しいと感じたのですが、専門の方から見てこの問題を解決することはできると思われますか。(2020年11月・高校生)
- 将来的にウイルスなどで食物が育てられなくなったときや、人口増加で食料がさらに足りなくなったときに、遺伝子組み換え作物を使用しない場合、どのような別の対策ができるでしょうか? (2020年11月・中学生)
- アフリカやスーダンなどの発展途上国の飢餓問題を、遺伝子組み換え作物を栽培することによって救えると思いますか? (2022年1月・高校生)
- 将来の食糧危機に向けて昆虫食が注目されていますが、遺伝子組み換え作物を栽培することによって、食糧危機や飢餓を救えると思いますか?(2022年1月・高校生)
- 人口増加などで食糧難になるという話もあります。その時病気などに強く栽培が簡単な遺伝子組み換え作物が作れるのなら、遺伝子組み換え食品はさらに身近になっていくのでしょうか?(2022年1月・高校生)
- ゲノム編集は国の許可が必要ではないと調べてわかったのですが、国の許可が必要である遺伝子組み換え作物とでは、どちらの方が安全ですか。(2020年11月・高校生)
- そもそもゲノム編集技術と、遺伝子組み換え技術の違いはなんですか。(2021年1月・高校生)